インタビュー:百合翻訳者アナステーシア・モレノさん

action girl v7 pinup


(以下は2008年5月5日にOkazuに掲載されたインタビューの日本語訳です。Note: Below is a Japanese translation of the Okazu interview, dated 5 May 08. Please go to Okazu for the original interview.)
Interview with Yuri Translator Anastasia Moreno
インタビュー:百合翻訳者アナステーシア・モレノさん

今回もマンガ業界の裏側を探ってみましょう。本日、我々は百合作品を翻訳するアナステーシア・モレノさんをインタビューします。ようこそ、アナステーシアさん。ではさっそく質問をしたいと思います!

1)でははじめに、基本的な質問です。自己紹介をしていただけますか?

私のフルネームはアナステーシア・シマブク・モレノです。日本とフィリピンのハーフで(国籍はアメリカ)、沖縄で生まれ育ちました。子供のころは兄8人と日本のテレビばかり見てて、特にうる星やつらガンダムなどのアニメを見てました。高校卒業後、アメリカのアリゾナ州立大学に数年ほど行きましたが、けっきょく中退して海兵隊に入隊しました。沖縄に配属されて、航空自衛隊の方と結婚しました。海兵隊を名誉除隊した後、公務員になり、在日米軍基地などで勤めています。現在横田基地にいます。マンガ以外の趣味はサッカー、筋トレと日本の芸人の真似です。

2)マンガを読みますか?マンガを好きになったきっかけは?その流れでマンガ業界に入ったんですか?それとも富と名誉と女の子にモテるためにマンガの仕事を始めたんですか?:-)

‐そうですね、前からずっとマンガを読んでいましたが、昔の膨大な数に比べたら、今はごく少数で厳選したマンガを読んでいます。
‐アニメは幼い頃からずっと見ていましたが、マンガを初めて読んだのは高校1年生の頃です。当時、私はバレー部員だったんで、友人がバレーのパロディマンガを絶対読まなきゃいけないよと1冊薦めたんです(ハイスクール!奇面組第3巻(文庫バージョンは2巻))。家で読んだ時、お腹が痛くなるほど笑いました!墨、スクリーントーンと紙だけで作られたマンガは、こんなにも感動を与えられるんだって思いました(私の場合は笑いですが)。その時から私はマンガの虜になりました。マンガを熱心に読んだり、自分でもマンガを描き始めたりしました。
‐実はマンガ業界で働くのは今回で二度目なんです―最初は漫画家として、そして今では翻訳者としてです。1990年代に、(アリゾナ州立大学の)校内新聞、Arizona Daily Wildcat(アリゾナ・デイリー・ワイルドキャット)に、「Campus Abalone(キャンパス・アバロニー)」と言う大学の自転車警察が(通称:チャリ・ポリ)主人公の4コマ漫画を描きました。当時、アメリカのコミックス業界に日本のマンガやアニメが注目されて間もない頃だったので、現在の読者のようにすぐ「マンガ」だと理解をしてくれなくて、手で数えるほどのファンしかいなかったんです(例えば大学のアニメサークルのメンバーや、少数の一般コミックスファンとか。)それに、「Action Girl Comics(アクション・ガール・コミックス)」のインディーズコミック(Slave Labor Graphics)にマンガを掲載され(7, 10, 14巻)、大学の考古学のテキストのイラストもしました。そうそう、YAWARA!ファンサブなどをちょって手伝いました。
‐その後、海兵隊に5年間勤めましたが(1999〜2004年)、ほとんど沖縄に展開していたため、アメリカのマンガ業界がどれほど進化したのか知るよしもありません。海兵隊での主な役職は、催涙ガス訓練やガスマスクの整備を含む核・生物・化学防護教官(NBC)で、副職は軍事通訳・翻訳でした。アメリカと日本の将軍らの軍事会議の通訳や、軍事通信、文書及びマニュアルなどを日本語と英語に翻訳しました。
‐その後、アメリカ政府の公務員になり、引き続き軍事専門の通訳や政治分析をしています。(兵隊のハードな勤務に比べて)サラリーマンのような勤務時間のおかげで夜や週末に余裕ができ、趣味であるマンガに戻れました。マンガ業界に復帰するには、漫画家よりも翻訳者として入りやすいと思い、運よく出版エージェントと知り合い、常にマンガやラノベの翻訳プロジェクトを紹介してもらっています。
‐私は単にマンガが好きなので、富と名誉というよりは、個人的な満足感のために翻訳しています。もちろん、自分の名前が作品に載せられるとちょっと嬉しいですネ。(^_^) 大学時代は女の子にモテなかったが、アニコンでよくセーラー服のコスプレをしたので、オタクにはすごくモテましたよ。ハハ

3)仕事の具体的な内容を説明してもらえますか?マンガの英語版を出版するに当たって、どの段階で作業するんですか?

出版社がライセンスを獲得したあとに翻訳の作業が入ると思います。私は日本語のマンガやノベルを英訳する役割です。出版社によりますが、ライターさんがいる場合は簡単な翻訳だけを要求することもれば、翻訳者にリライト・編集もお願いすることもあります。各出版社はそれぞれの方針や翻訳に対する要望があります。例えば、敬語はそのままにしたりしなかったり、擬音(オノマトペ)を直訳、ローマ字、または無視したり、テンプレートがある場合はそれを使って翻訳します。
出版社のニーズによりますが、マンガかノベル一本を翻訳するのにだいたい1〜3ヶ月与えられます。一ヶ月で最も多く翻訳したのはマンガ3本とノベル1本(それと通常の日勤、家の引越しと子犬を購入しました。大変な1ヶ月でした。)(T_T)

4)百合マンガのファンですか?百合作品を翻訳する前に、百合作品のことはご存知でしたか?

はい、百合作品のことを知っています。百合は割と好きなんですが、基本的には一部の百合キャラが含まれるか含まれない一般の少年・少女漫画を読みます。今の時点では、ストロベリー・パニック以外の百合作品に関わっていません。この作品はキャラの大げさな演技やタイミングが良すぎる誤解のおかげでかなりオーバーな作品でした。キャラが真剣になればなるほど、私はおかしくてしょうがなかった。ですので、大げさな演技や真剣なセリフをできるだけ保つことを心がけ、結果的にコメディ的な部分が強調されました。

5)ありとあらゆる百合作品があります。良い作品もあれば、そうでないものもあります。関わった作品に対する感想は?おかしかったですか?まじめだったですか?充実したものでしたか?それとも大したことなかったですか?

ストロベリー・パニックしか翻訳してないので、他の百合作品と比較できません。でも、ストパニはとてもキュートな絵柄で、楽しく翻訳させていただきました。ストーリーを真に受ける読者もいれば、パロディとみなす読者もいると思いますが、ほとんどの方たちはこの作品を好きになると思います。私は両方の見方で楽しめました。

6)ファンからの感想などありました?特に伝えたいことありますか?

いいえ、翻訳者は自分のホームページを立ち上げるか、または掲示板で意見を求めない限り、ファンからの感想を直接もらうことはほとんどないです。私はよくオンラインレビューを読んで、翻訳に対する評価があるかどうか調べます。翻訳が良い評価をもらうと、ちょっと嬉しいかも。(^_^)
軍事通訳でもよくある話ですが、翻訳・通訳がよければ、原作者や出版社はけっこう高く評価されますが、ちょっとでも悪い結果だと、真っ先に翻訳者・通訳者のせいにされます。はぁー。翻訳者をもう少し大目に見てください。翻訳者は皆外国語の作品をできるだけ対象語で理解されるように頑張っていますので、文化を渡る際、多少の主観的な違いやぎこちない部分が残る時もあります。どんなに翻訳が上手くても、面白くない作品を救うことができない場合もあるんです。(T_T)

7)どのような百合作品をアメリカに持って来て欲しいですか?特に翻訳したい作品ありますか?

私は元祖「花のあすか組!」のマンガをアメリカに持って来て欲しいです。東京の地下組織で女子中学生がお互いをボコボコにする設定なんてありえないじゃないですか!実は各エリアマスターのおかげで東京23区を暗記できたんですよ、ハハ。もちろん、私が翻訳したいですね!そのほかに、魔法の海兵隊員ぴくせる☆まりたんみたいな、私の二つの文化に基づく経験や軍事経験などを活用する作品の仕事をしたいですね(声優さんたちに海兵隊の凄い英語のセリフの発音指導をしました。とてもユニークで楽しい仕事でした!)女性の軍人・警察官のいる百合作品があれば、私に教えてください!

8)仕事の好きな部分、嫌いな部分は何ですか?

仕事の好きな部分は、ストーリーの中にあるマイナーギャグを(アメリカ人には分かりづらいが、日本には一目瞭然なギャグなど)見つけて注釈で説明することです。残念ながら、ストパニに関しては、ストーリー全体が一つのパロディだったので、注釈は無かったんです…
仕事の嫌いな部分は、たまに回ってくる厳しい締め切りですね。日勤は週に40〜60時間働いて、マンガの翻訳業務は夜や週末に(週に50〜70時間ぐらい)やってるので、私生活や睡眠の時間はほとんどないようなもんです。締め切りが迫る数週間前は、旦那や子犬を放置しなければならなくて、罪悪感を感じます。

9)最後に皆様に伝えたいことはありますか?

えっと、できれば、自己PRをたくさんしたいです…(^_^)
まず、ストパニのマンガやノベルを買ってください!カワイイ絵柄、お気に入りのキャラ・カップル、またはパロディの部分…絶対好きになる要素があるはずです。とても楽しい作品ですよ!
百合ではないんですけど、私が翻訳したほかの作品も買ってください:ラブひなノベル12巻(TOKYOPOP)、トリニティ・ブラッドノベルRAM1ROM1(TOKYOPOP)、シュガープリンセス12巻(VIZ)、ハード・ロック(DMP)、アライブ:最終進化的少年の連載(Del Rey)と、メイド・マシンガンノベル(Del Rey)!
それと、またギャグマンガを描いてネットに公開する予定です。楽しみにしてください!
どうもありがとうございました。

アナステーシアさん、ありがとうございました!私と同じく「花のあすか組!」ファンに会えてとても嬉しいです!これを読んでる皆様に、英語と日本語で書かれてる彼女のブログ「マンガ軍艦」をお勧めします。マンガ軍艦は、ランダムな話題のほかに、翻訳に関する苦労話が盛りだくさんです。

最後にもう一度、マンガ出版の裏側を見れたと思います―今回のインタビューに参加した3名の彼女たちに感謝します。これからも良い百合作品を作ってくれることを願います!